< しょう油が粉末なんですよ パウダーしょう油 〆の「たまごのっけごはん」が絶品でした >
コロナになってから、ちょっと足が遠くなっていたダイニングバーがあります。
半年ぶりでしょうか。先日顔を出してきました。
そんなことになっている呑み屋さんってありませんか?
特にハッキリした理由があるわけじゃないけど、そういえばこの頃行ってないなあっていうお店。
行かなくなったキッカケはコロナ禍での飲食店営業自粛、時短営業なんですけど、解禁になってから1回、2回しか行ってないような。
そのダイニングバーは電車で2駅の距離なんですが、線路が途中からぐいぐい曲がってほぼ90度ぐらいに折れているんで、三角形のもう1つの辺を歩けば1駅分を歩くぐらいで行けるんですね。
40分ぐらいでしょうかね。
呑んだ後に電車に乗るのはとにかく面倒くさい気分になっちゃうんで、歩いて帰ってくるようにしているんですけど、ま、そです。歩くのだって40分も歩くとなりますと、やっぱり面倒くさいんですよね。
たぶんそれで足が遠のいた、ような気がします。
でも先日、よく行く近所の呑み屋さんが、定休日だったり、温泉旅行に行ってきますだとか、仕入れ先が休むんで一緒に休みますだとか、軒並み、なんやねん! っていうことになって、お、そっか、久しぶりに行ってみようってことで電車で出かけてきました。
「ああ、どうもお。久しぶりじゃないですか、ぱうすさん。倒れてた?」
倒れてないっすよ。
ひょろっとした、背の高いマスターなんですけどね。半年顔を出さなくても、覚えてくれていますねえ。
生ビールの他には、焼酎、日本酒、ワイン、梅酒のボトルを10本弱ぐらい、ショットで出している店です。
アテは、鉄板焼きの創作料理。
ボリュームのあるコブサラダが人気の店なんですね。
焼酎の銘柄は空いたら違う銘柄を、昔から取引のある酒屋さんから仕入れているってことでしたが、その日は「佐藤 黒ラベル」の一升瓶がで~んって置いてありました。
「酒屋が入ったって言うから入れてみました」
焼酎派の人なら知っていると思うんですけど、トップクラスじゃないにしても、芋焼酎の「佐藤 黒ラベル」はそこそこオタカイんですよね。
そもそも置いていない店の方が多いかもしれません。ショット売りで1200円とか取らないと仕入れと合わないから。とかいう声も聞きます。
なんかね、酒の流通の仕方って昔の縄張りルールみたいなのがあって、酒屋さん同士でもプレミア付きの値段でしか取り扱えない銘柄っていうのもあるんだそうですからね。人気の銘柄は高くなっちゃうわけです。
で、そのダイニングバーでは、いくらで出しているのか聞いてみますと、
「500円。うちは、定価でしか仕入ないからね。他の店はちょっと取り過ぎなんだよ」
ふむふむ、じゃあってことで、佐藤をロックでいただくことにしました。
ん~。こんな風味だったですかねえ。ってな感じでしたが1ショット500円の高級品です。満足まんぞく。
と、
「ああら、ぱうすさん。どしたの? お久しぶり~。傘持ってきたあ? やっはっはあ」
おおお、このツマラン決まり文句はショウコちゃんじゃございませんか。
自称アメオンナで、ほんとにショウコちゃんが顔を見せると、それまで気配もなかったのにパラっと来る。
タバコを吸う人なんですが、カウンターで呑んでいて、表の喫煙場所に出ようと入り口ドアを開けると、
「あ、来たきた、降って来たわよお」
っていうような人なんであります。
40代ぐらいでしょうかね。
その店で顔を合わせると、何か言いながら、語尾には「傘持って来たあ?」ってなるんですね。
お久しぶりで、傘持ってきたあ? もないもんだってことではあるんですけど、ま、お元気そうでなによりです。
「とろとろあんかけどうふ」をアテにやっていたんですが、
「ぱうすさん、ステーキ、おニューになったのよ。食べてないでしょ、お勧めよ」
ってショウコちゃんが生ビールを呑みながら教えてくれます。
この店のステーキは650円で鉄板で出てくる豚肉ステーキ。
前は500円のポークソテーだったんですけど、厚みを増して、値段もアップして、ステーキに格上げされたのが2年前ぐらいだったでしょうかね。
ソテーとステーキって、そゆ関係なの?
ま、それはそれとして、材料やら諸経費の値上がりで、ポークステーキも値上げってこと?
「値段は一緒だよ。変えてないけど、ソースをデミグラスからバターしょう油にした」
ふううん、って聞いておりますと、
「そのね、しょう油がミソなのよ。しょう油なんだけどね、ミソなの。きゃははあ~」
ショウコちゃん、酔っぱらうの、早くない?
「ステーキの話してたらお腹空いて来ちゃった、あたし、ステーキちょうだ~い」
厨房にデッカイ鉄板があって、焼きもの炒めものはスピーディに出てきますし、旨いんです。
で、木皿の上の黒い鉄板皿に乗って出てきました、そのバターしょう油ポークステーキ。
その店ではカウンターの上に調味料は置いていなくって、料理に合わせた調味料を、その料理を出すタイミングで持ってきてくれます。
トンってカウンターに置かれたちいさな2つの調味料ボトル。
「これよこれ、バターしょう油」
ショウコちゃんはそのうちの1つを取って、パッパッと湯気じゅうじゅうのステーキにふりかけます。
「バターしょう油、たっぷりがおいしいのよ」
はあ? もう1つのミニボトルはよく見るSBのコショウです。
ふりかけ終わったショウコちゃんがそのボトルを見せてくれました。
おおお! 「キッコーマン パウダー バターしょう油」なんでありました。初めて見た!
「液体をかけるより冷えなくってイイんだよ」
「ね~」
ふううん。ちょっと手のひらに落としてなめてみました。
ほほう。面白い。バターの風味がしっかり感じられるしょう油。しょう油、なのに、粉。
へええ、こんなん出来たんだねえ。
「けっこう前からあるよ」
あ、そ。
旨いと思うけど、鉄板の上にしょう油かけて、ジャー!っていう音がするのもさ、旨いじゃん。
「だから、それだとステーキが冷めちゃうのよ。アツアツがいいでしょ」
「粉末しょう油のスペシャルメニューがあるから、〆におごるよ」
さっき吞み始めたばっかりなんですけど、そう言われると気になりますね。
〆? なに?
「たまごのっけごはん」
ん~。普通じゃん。
「それがねえ、普通じゃないのよ。これもまたバターしょう油なのよねえ」
アに言ってんだ!
で、まあ、普通に3杯呑んで、そろそろってなったら、出してくれました「たまごのっけごはん」
小さめのどんぶりにごはん。その上に軽く焼いた白身。かろうじて透明な感じがしないぐらいに焼かれていますけれど、ふわふわ状態。で、その上に生のままの黄身を落としてあります。そしてきざみネギ。
そこへ「キッコーマン パウダーバターしょう油」をパパっとふりかけて、ガサっと崩して、ガッツリいきます。
おおっ! 不思議だ。バターの風味が温かい。
これは旨いですねえ。
しょう油が粉末になっただけで、かなり違った感じのたまごかけ、じゃなくってのっけごはん。
旨いです。
生たまごをごはんにのっけて、しょう油をかけて、かきまぜて、っていう「たまごかけごはん」なのに対して、白身が一回焼かれているので黄身は沈みませんね。なので「たまごのっけごはん」
アイディアですねえ。
ふりかけるしょう油の量っていうのも、液体よりかなり微妙な感じに調整できるところもイイ感じです。
この日はおごってもらいましたけど、200円。
「ね、おいしいでしょ」
って、ショウコちゃん。まるで自分の手柄みたいに自慢気に言ったかと思ったら、
「あたし、ヤニを補充してくるね」
そんなの別に断りをいれなくたって、イっすよ。
足の高いカウンターの椅子からするりと腰を下ろして、すたすたと歩き去るショウコちゃんだったんですが、入り口のドアを開けたかと思ったら、
「ああ、ほらほら、降ってきたわよ。傘ないとずぶ濡れよ」
ショウコちゃんショウコちゃん、うっせえわ!
ホントにサラッと降って来たんですが、ずぶ濡れになるってほどじゃなかったです。駅までは2分ぐらい。
「ショウコちゃん、じゃあねえ、お先~」
「またねえ、ぱうすさん、気を付けてねえ」
生ビールにポークステーキとかいってるのに、ショウコちゃんはスリムなままなのでありました。
酒の〆で出会った、たまごのっけごはん、絶品の旨さでありました。
パウダーしょう油。
バイ、キッコマン!