< どろ~んって化けるのが上手なのは たぬき? きつね? いいえ、むじなです >
迎賓館赤坂離宮のある辺りは江戸時代には「赤根山・茜山」と呼ばれていて、江戸城の弁慶掘りに沿って赤根山に上って行く坂は「赤坂」って呼ばれていたそうです。
これが今の赤坂っていう地名の由来。らしいです。
で、坂に沿った敷地に紀州藩の上屋敷があったので、坂そのものは「紀伊国坂(きのくにざか)」っていう名前です。今でもありますよ。
この紀伊国坂が舞台となっている有名な話が、小泉八雲の「MUJINA」です。
1896年、明治29年に小泉八雲として日本国籍を取得したパトリック・ラフカディオ・ハーンが「怪談」を発表したのは1904年、明治37年、54歳で亡くなったその年のことなんですね。
「街灯、人力車の時代以前にあっては、その辺は夜暗くなると非常に寂しかった」
と紀伊国坂辺りを書き著しています。
人力車って1868年、明治元年の発明ってことらしいですから、小泉八雲の言う「人力車の時代以前」って、単純に江戸時代ってことなんだろうと思われます。
「日が暮れると、人々はこの紀伊国坂を通らずに回り道をした」
その理由が、紀伊国坂近辺に「むじな」が出るから、っていう話なんです。
30年前に死んだ京橋の商人が、最期にむじなを見た人だったそうです。
商人が夜遅く紀伊国坂を上って行く途中、上品そうな女が1人、掘りのふちにかがんでひどく泣いている。
身投げでもするんじゃないかって心配した商人がしきりに声をかけても、女は袖で顔を覆って泣き続けている。
「ここは若い女の人が、夜1人で居るような場所じゃありませんよ」
となおも声をかけると、女は商人に向きなおって素早く袖を降ろすと、手で自分の顔をするりとなでた。
その顔を見ると、目も鼻も口もなかった。
ぞっとした商人が一目散に坂を駆け上って逃げると、先の方に灯りが見える。
慌てて走り寄ると、その灯りは屋台の蕎麦屋。
商人は、今見たばかりの「のっぺらぼう」を報告しようとするんだけれど、気ばかり焦ってうまく言葉が出てこない。
「女を見たのだ、その女が見せたのだ」
と言うと、
「それは、こんな顔だったかい」
といって、振り向いた蕎麦屋が顔をなでると、その顔は卵のようで、屋台の灯りがすっと消えた。
ってまあ、こういう話ですよね。むじな。
小泉八雲のむじなに蕎麦屋が出てくるからってわけでもないでしょうけれど、蕎麦屋さんのメニューにありますよね「むじな蕎麦」
どこの蕎麦屋さんにでもあるっていうスタンダードメニューじゃないですけれど、駅の立ち蕎麦メニューには「たぬきつね」っていうのもあったりします。
食べたことあります? むじな蕎麦、あるいは、たぬきつね蕎麦。
「たぬき」に「きつね」を合わせたんで、シャレとして「むじな」でしょ、っていうのはわりとすんなり納得できるように思うんですが、
「なに言うとんねん、さっぱりわからんわいっ!」
って、なんでだかお怒りモードになっちゃう人が居たりしてビックリします。
2017年に閉店しちゃった葛飾区立石の蕎麦屋さん「松月庵」が、むじな蕎麦を始めた店なんだそうですよ。
ただ、店として、そのことを主張したり名物にしているような様子は見られなかったらしいですね。
揚げ玉、油揚げが両方乗っかっているのがむじな蕎麦。
ま、それ以外にもナルトだったりネギだったりも乗っかっていますけれど、違和感とか、全然ないです。
「たぬき」は大正時代に東京で生まれたメニューなんだそうです。
揚げ玉というか、天かすは天ぷらのタネのないものっていうことで「タネヌキ」
で、「タネヌキ」から「タヌキ」っていう名前になったって言われていますね。
ネーミングについての説はその他にもたくさんあるみたいですよ。
ただ「たぬき」っていう名前が必ずしも揚げ玉、天かす乗せを表すものじゃないっていうことが、さっきの「むじな」ワケワカラン説につながっているみたいなんですよね。
大阪の「たぬき」は油揚げを乗せた「蕎麦」
うどんじゃなくって蕎麦。
たぬき言うたら蕎麦やろ。
これですね、なんともややこしい、食い倒れの街、大阪の「たぬき」揚げ玉は無料で置いてる店が多いんだそう。
んでもって、京都の「たぬき」は、刻んだ油揚げの上から葛餡を掛けたものなんだそうで、揚げ玉乗せは「はいから」
カップ麺の「マルちゃん緑のたぬき天そば」は「かき揚げ」入りですよね。
「たぬき天」とは「かき揚げ」のこと。へええ~、です。でも旨いです。なにもモンクないです。
「きつね」は江戸時代に大阪で生まれたらしいです。「けつね」って呼んでいる人もいますよね。「しのだ」って言う人もいます。
京都には「甘ぎつね」「刻みきつね」っていう2種類があって、味付きの三角揚げが「甘ぎつね」で、味付けをしていない刻み揚げが「刻みきつね」
大阪の「きつね」は素直に味付き油揚げ乗せ。
ただ、習慣的に大阪の「きつね」はうどんのみを言い表していて、上にあげたように蕎麦に味付き油揚げを乗せれば「たぬき」になるってことみたいです。
大阪でも揚げ玉乗せは「はいから」って呼ぶ人もいるらしいんですね。
「たぬき」「きつね」の特殊性って京都、大阪エリアに限られたものなのかもしれません。
うどん、蕎麦に乗っけるのは揚げ玉、油揚げ以外にもたくさんありますよね。バリエーション豊富な和食ファストフード。
「月見」生卵ですね。卵白が雲、黄身が月。海苔が乗っかっていれば、それは夜を表しているみたいです。
「山かけ」山芋のすりおろしですよね。温かいのを山かけ、冷たいのをとろろって区別している店もあります。
「とじ」溶き玉子でとじたものですが、玉子だけを落としたものの他に、エビ天をとじたものは「天とじ」って言いますよね。
「天ぷら」いろんな具材の天ぷらがあります。立ち蕎麦の天ぷらは、たいてい「かき揚げ」です。かき揚げの種類もいろいろですよね。
立ち蕎麦の人気メニューには「天玉」っていうのがあります。天ぷらと生卵。旨いです。
「ちから」焼き餅ですね。「かっちん」って呼ぶ地方もあるそうです。3個にして~、って頼んだりします。
「おかめ」これって今はかまぼこが乗っかっているだけなんですが、元々は「岡目八目」のおかめだったんだそうで、いろいろな具材、八目が乗っかっていたんだそうです。残念。
五目より三目多かったんですねえ。
「おだまき」茶碗蒸しの具です。2回しか食べたことありませんが、オタカイです。
「花巻き」もみ海苔ですね。浅草海苔が「礒の花」って呼ばれていたことから付いた名前だそうです。
「カレー」南蛮って呼ばれる人気メニューの1つですね。カレーだから南蛮なんじゃなくって、南蛮っていうのはネギのことだそうですよ。
「カモ」南蛮って言えばこれですね。カモって言いながら実はカシワっていう、ダメダメな店もありますよ。
「肉」牛か豚がほとんどですが、馬を使っている地域もあるみたいです。
「コロッケ」これ、立ち蕎麦では当たり前にあるメニューなんですが、蕎麦屋さんでは見ませんね。なんででしょ。
まだまだいっぱいあります。
お気に入りの店の全メニュー制覇って、やっている人、けっこう居ますね。
その歴史については諸説ある蕎麦切り、うどんですが、うどんが中国から遣唐使によってもたらされたっていうのは、どうやら確からしいです。
ルーツがどうあれ、長い時間経過の中で独自の発展をさせるっていうのは日本人の得意技ですけれど、日本のうどんは、現在の中国で一定の人気を得ているらしいんですよね。特異の逆輸入です。
中国語で「烏冬」って書くのは発音として日本の「うどん」から持ってきているみたいです。
中国で人気の日本のうどんは、
「秋田 稲庭うどん」「群馬 水沢うどん」「埼玉 加須うどん」「香川 讃岐うどん」「三重 伊勢うどん」「富山 氷見うどん」
です。さすが、有名どころですね。このほかに、
「山梨 ほうとう」「名古屋 きしめん」もあって、これはまあ、うどんですねえって理解できるんですが、なんだか地域限定で、
「大阪 きつねうどん」「福岡 丸天うどん」
っていうのもピックアップされているのが面白いです。
「福岡 丸天うどん」知らねっす。食べてみたいです。コロナ明けたら絶対行くです。
日本三大うどんっていうのがありますが、3つに絞り切れていないみたいです。三大じゃないじゃんね。
「香川 讃岐うどん」「秋田 稲庭うどん」「長崎 五島うどん」「群馬 水沢うどん」「富山 氷見うどん」「愛知 きしめん」の6つが「三大」にあげられています。
蕎麦は理論的には簡単だけど、作る技術が難しいとされるのに対して、うどんは作る技術はだけど、製麺理論は難しいんだそうです。
うどんを製麺するのに、季節に合わせた塩加減を口伝するものに、
「土三寒六常五杯(どさんかんろくじょうごはい)」
っていうのがあります。
「土」は夏の土用のことで、暑い時期の塩加減は、塩1に対して水3にして小麦粉を練る。
「寒」はその字のまま寒い冬。塩1に対して水6。夏よりかなり薄めの塩水で練る。
「常」は暑い時期でも寒い季節でもない時。この時は塩1水5で練るっていうことなんだそうですよ。
もちろん、これはあくまでも目安であって、塩も水も、そして小麦粉も、時代や土地によって違うわけですからね。手打ちうどんは個人の工夫によるところが大きいんでしょうね。
その日の湿度とかも関係ありそうです。知らんけど。
蕎麦好きなんですが、うどんもイイですよねえ。
6つあげられている日本三大うどん。実地に行って味わいたいなあと思う、きょうこのごろです。
福岡、丸天。どんなんかなあ~?