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【物語の主人公とはナニモノなのか】散文の書き方を考える その15

< 困っているネコを助けて読者の共感を得て 行動によって自らの状況を変えて 自分も変わる >

ブログ記事、小説、シナリオ、エッセイ。
散文を書く、書き続けるっていうことについて、いろいろ考えてみる15回目です。


我々の書く、あるいは書こうとしている物語には例外なく1人以上の主人公がいますよね。


主人公のいない物語があったとしても、それは読者に訴求力を持たない、魅力のないモノになるでしょうね。


これまでの読書経験の中で、主人公のいない物語の具体例を知りません。


例えば群像劇にしても、必ず1人以上の主人公が設定されています。
描きたいのは群像ですから、その主人公だけが抜きん出て物語られることはないにしても、物語全体はその主人公を中心にして回っていますよね。


物語によっては読む側が感情移入できる登場人物じゃない登場人物が主人公であることもあるでしょう。
そういう場合でも主人公が誰であるのかは、理解出来ていると思います。


映画やドラマではダブル主役、とかいう宣伝文句を見かけることもありましたが、そういうのはキャスティングとして、そもそも人気のある役者さん、それ以上に役者ですらない人気タレントを並べることで注目を集めようっていう手法にしか思えませんね。広告効果としての制作側の狙い。


物語の内容と直接的な関係は感じられないことが多いんじゃないでしょうか。


映画であれ小説であれ、物語自体は、やっぱり1人の主人公が回していくっていうのが通常ですよね。


極端に表現してしまえば、物語は主人公ではありませんが、主人公が物語であるってことが言えそうです。


魅力的な物語は魅力的な主人公そのものです。

 

 

 


例えば今、あなたが書いている小説の主人公はどんな物語を持っていますか。
今考えているシナリオの主人公が持つ物語は魅力的ですか。


我々は小説を書こうとしています。シナリオを書こうとしています。
物書きである我々にとっての主人公とは、人気の高いタレントではありませんね。


我々自身が、個人的に、独自に考え出した主人公。


時には人間以外の主人公っていうのもあるんだろうと思いますが、たいていの場合、架空、想像上の人物になると思います。


歴史上の人物を主人公にした物語ですか? その場合でも、ノンフィクションを書くのでなければ、教科書に載っているような史実から離れて、想像上の行動を主人公に望んでいるんじゃないでしょうか。


史実からは想定できないようなドラマティックな展開。それが想定されているからこそ、その歴史上の人物を主人公に据えたんですもんね。
歴史小説っていうより時代小説。ぜひ面白い物語を完成させたいですよね。


読者に主人公の魅力を感じさせたいものです。


さて、様々なジャンルの物語における主人公とは、いったいナニモノなんでしょうか。


主人公が物語だって先述しました。
そうなんです。これから書こうとしている物語について考えることは、ほぼ主人公について考えることだと言えそうです。


また極端な、と笑うでしょうか?
別に奇をてらって言っているわけじゃないんですよお。


小説の物語、映画やドラマの物語とは、いったいなんでしょうか。


人はなぜ小説を読み、映画を観るのでしょうか。しかもほとんどの場合、一回だけの経験で終わるのではなく、何回も繰りかえして、同じ物語を、別の物語を。


小説の、映画、ドラマの、何に対して満足したり、感動したりするんでしょうか。


それは物語の、つまり主人公の変化に、じゃないでしょうかね。そう思いませんか。


全ての物語は主人公の変化を描くものだって言えると思います。
物語りの最初から最後まで、何も変わらない主人公は、読み手の共感を得ることなんてないんじゃないでしょうか。


主人公の変化こそが物語のコア。でしょねえ。たぶんねえ。

 

 

 


山本周五郎の「樅ノ木は残った」っていう極めて優れた歴史小説があります。
何度も映画やドラマにもなっています。


もちろん主人公は樅ノ木じゃなくって、仙台藩伊達家の原田甲斐っていう武士なんですが、藩内の同僚や対抗派閥の思惑や企み、その絡み合いに翻弄されて、安定しているはずの大藩も激しく変化せずにはいられない。


その虚しいとさえ感じられる変化を、人の生きざまの移り変わりを強調しているのが、物言わぬ樅ノ木であるっていう物語。


既に物語の最初から大木であった樅ノ木は、物語の最後でも特に変化するものではありません。


どっしりと動かぬ大木を物語の最初と最後に配置することによって、原田甲斐の生命が、もうこの世には無くなってしまったこと、藩政の中での人々の顔ぶれの変化、幕政の人事配置の変化をしみじみと感じさせているんですよねえ
タイトルも実に巧いんですよね。


物語を書く側として考えますと、人の世の変化の虚しさを、物を言わず動かない樅ノ木に語らせているところが憎らしいほどに見事です。


さらに、この小説は従来、伊達家のお家騒動において悪人とされてきた原田甲斐という男に、実は主家を守るために滅私したヒーローだっていう解釈を与えています。


事の真相は如何に、といった問題を提起した名作で、藩の重臣を斬り殺した悪人とされる男を、その行動の理由を示して、魅力的な正義漢に描きながら、腹をくくって自らの生命を散らすまでの心情を、行動の変化として書き上げられています。


この原田甲斐の、最後は死で終わるわけですが、生き方の変化に読み手は感情を揺さぶられるのだと思います。
名作ですね。


では、主人公が変化する様を、ただ書きさえすれば、魅力的な物語になるのかといえば、そうじゃないことは容易に理解できますよね。


「樅ノ木は残った」の例でいえば、原田甲斐の魅力を感じ取れなければ、樅ノ木の声を読み手が聞くことはないでしょう。


変化していく主人公には、読み手に訴えかける魅力が必要だっていうことですね。


スーパーヒーロー的な魅力っていうのも一つの手段ではありますが、とりあえず我々が目指すべき主人公の魅力とは、日常の中で普通に見かけられる、容易に理解、共感できるものがイイんじゃないでしょうか。


ブレイク・スナイダーの脚本術の本「save the catの法則」でも、主人公の作り方について触れられています。


魅力的な主人公とはどんな人間なのか。


答えは単純明快。それが本のタイトルにもなっている「save the cat」なわけです。


英語教育がスタンダードになった今どきでは小学生でも分かるレベルの英語。「save the cat」


道端でもどこでも、ピンチに陥っているネコを助けるような人間を悪く思う人はいない、っていうことですね。
感情移入っていうことでしょか。


主人公は、とにかくネコを助けろ、ってブレイク・スナイダーは言っています。


我々の書く物語の主人公は、何よりもまず、魅力的でなければなりません。
魅力的な主人公っていうのは、誰もが憧れるような魅力を持った人間である必要はなく、誰でも共感できるような性格であること。物語としての共感力。


だから、とにかく、何でもいいからネコを助けろ、っていうわけですね。

 

 

ブレイク・スナイダーの脚本術の本は三冊出ていて、どれも優れた内容なんですが、主人公の作り方について記述しているのは最初の一冊がメインです。


主人公については、その魅力っていうより、変化の作り方に重点が置かれています。三冊とも、とても良い本だと思います。


なにしろ、主人公の魅力についてはそのタイトルが雄弁に語ってくれているわけですからね。ネコを助けろ。


ん? ネコを登場させろってこと?
とかね、そんな解釈をする人はいないだろうとは思いますが、老婆心ながら。


「save the cat」ネコを助けろ、の実際について。


ごく当たり前のことですが、ハリウッド映画の全てに、主人公がネコを助けているシーンがあるわけじゃないですよね。って言いますか、主人公がネコを助けているファーストシーンなんて、読んだり観たりした記憶がないです。


ブレイク・スナイダーはなんでネコを選んだんでしょうね。


ネコを助けろは、主人公の紹介シーンに有効だって言ってます。


その人物がどういう人間なのかっていうことは早いうちに読み手に伝えておくべきですもんね。
その際に物語の主人公を読み手に気に入ってもらうことに成功すれば、もう、3割ぐらいは成功した物語だって言えるのかもしれません。


読み手が主人公に興味を持ってくれたら、間違いなく先を読み進めてくれるでしょうからね。


具体的に困っているネコを登場させて、主人公が救いの手を差し伸べるっていう必要はなくって、読み手の共感を誘えるのであれば、どんなことをしてもいいんです。


大事なことは、とにかく、何かを行動で示して物語の主人公に読み手が共感を持ってくれること。
さらに言えば能動的な行動である必要もないでしょう。


どんどん弱った状況に追い込まれる主人公であったとして、その状況に読み手が共感してくれれば「save the cat」成功です。
ネコは必要じゃないけど「save the cat」


変化していくことを考慮すると、最初、かなり弱った状況にいる主人公の方が、後々、書きやすくなる可能性もありますし、悪くないかもしれません。


感動的なラストシーンから、相反するファーストシーンを導き出す、っていう方法もオーソドックスなものですしね。


ん~、そうはいっても、物語の中で魅力ある主人公って、創作するのはかなり難しいなあ、ですよね。


だとしたら、マインドマップを利用してみるのはどうでしょう。
マインドマップの無料アプリだとかも、いくつかあります。試してみるのも悪くないと思います。


主人公をマップの中心に据えて、関連する人間達を結びつける。
良い友人もいれば、イヤな奴もいるでしょう。恋人や結婚相手、敵対する組織の人間もいる。


それらの人々に対して主人公は、どのように接しているのか。その接し方に主人公の魅力をアピールできるところを探す。「save the cat」を探す。

 

 

 


主人公の弱点を並べてみる方法もあります。


それぞれの弱点に主人公はいちいちどんなふうに対応しているのか。
うまくいく対応、うまくいかない対応。うまくいかないとき、主人公はどんなリアクションをするのか。


そこに読み手の共感を呼ぶ工夫を潜ませる。「save the cat」を創る。


主人公の性格や、生活している環境、人間関係。その中に「save the cat」のエピソードが巧くハマれば、主人公の魅力アップは間違いのないところになりそうです。


何不自由のない環境に生まれて、仕事も順調で、生活していくうえで特に支障を感じることもなく、周りの人間たちも気の置けない人ばかり。
でも、今度の休みにどこへ行こうか、とても悩んでいるんだ。っていう主人公がこの先どうなるのか。


そういう話に興味を持ってくれる読み手はいないんじゃないでしょうかね。


読み手の共感を得られる物語の主人公っていうのは、登場した時点で、何とか工夫して現状の危機を克服しなければならない状況に置かれている。


それは、読み手が、自分にも起こり得る、自分にも覚えのある、ちょっとヤバイ状況。
で、どうするの? って、読み手が気になるシーンが描ければスタートは上々ですよね。


つまり主人公は、トラブルに巻き込まれてしまう場合でも、自ら変化していかなければならない存在だっていうことです。


主人公の未来、物語のその先に、読み手の興味を促す。


それで? それで? え、どうするの? 
先へ先へ、読み手の意識を引っ張る。その役目を果たすのが、そうです、その役目を背負っているのが我らが主人公ってことですよね。ネコの方じゃないです。


主人公の選択した行動によって、状況はさらに悪くなってしまうことも多いでしょう。
はらはらドキドキが深くなっていく。


このとき、主人公に魅力がなければ、読み手はついて来てくれません。ふううん、そうなの。っていう冷たい反応で、先を読んでくれなくなっちゃいますよ。たぶんね。
主人公にはまず、読み手が共感してくれるような魅力が必要です。「save the cat」ですね。


そして同時に、現状の苦境を脱却する必要性を抱えていて、その解決に向けて、変化していく存在。それが魅力的な主人公。


テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼの3つのシチュエーションは、まさに主人公の変化、そのものだっていえるでしょうね。


主人公は、物語です。共感と変化、でしょねえ。
 
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